レテラ・ロ・ルシュアールの書簡

「事実を織り交ぜた嘘を見破るのは、案外難しいものだよ。それに、証人ならいるさ」
 ミシアン将軍は変わらない笑みを湛えたまま、僕の肩を引き寄せた。
「ここに」

 僕は束の間絶句し、次の瞬間ミシアン将軍を力いっぱい跳ね除けた。
「冗談じゃない! 僕は嘘は書かない!」

 声高に拒絶した僕を、ミシアン将軍は見つめる。口角は優しげに上がっているのに、その瞳はまるで笑んでなかった。瞳の奥底が冷ややかで、僕はぞっとした。

 この人は、やっぱり危険な人だ。
 ミシアン将軍は僕から視線をそらして、マル達の方を見渡すと、再び僕に視線を送った。

「じゃあ、しょうがない。君の両親にも死んでもらわなくちゃいけないな」
「……は?」
「御両親だけじゃない。ルクゥ国での君の友人も、職場の人間も、一掃しなくちゃいけなくなるね」
「なんでだよ、関係ないだろ!」

 僕は思わず叫んだ。

「関係なくはないだろう。君が紅説王の暴挙を阻止しようとした英雄の生き残りならまだしも、紅説王に与した裏切り者だとなれば、君に関係した者を処断しなくちゃならなくなる。幸いなことに、ルクゥ国からは、もう一人、ヒナタがいる。彼女に英霊となってもらえば、我が国の面目も保たれるさ」
「……なら、僕はそれでいい」

 嘘の記事を書くくらいなら、死んだ方がマシだ。両親には悪いが、絶対に僕の無実を信じてくれる。僕のことを天国で知ったなら、誇ってくれるはずだ。

 友人、職場の人間が処刑されることは、ほぼ間違いなくない。友人も、職場の者も貴族の出ばかりだ、犯罪者と関わっていたって、減俸されることはあっても命まで盗られることはない。

 これは、ただの脅しだ。
 僕の考えを見抜いたように、ミシアン将軍は僅かに目元を細めた。

「――では、君の命よりも大事な、君の書き記した全ての書物も、メモも、全部燃やそう」

 僕の記事を燃やすだって――?
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