レテラ・ロ・ルシュアールの書簡
「テメエもな! 女殺して鼻高々になってんじゃねえぞ! ヒナタちゃんはなぁ、お前なんかより、ずっとすげえことしてきたんだよ! お前、魔竜に少しもびびらずに立ち向かえんのかよ!」
陽空の罵声に、ミシアン将軍は笑みを返した。
「出来ないと思いますよ。焔将軍。あの娘は、特別でしたから」
ミシアン将軍の笑みは、変わらず優しげで柔和なのに、何故だか先程までと違ってどことなく切ないような気がした。いや、それも少し当てはまらない。
この瞳は、どこかで見覚えがある。愛しい者を見る――いや、もっと、どこか狂気じみているような……。
将軍は、静かに瞬きをし、陽空から視線を外した。僕に向き直ったときには、あの感じは消えていた。
「安心しろ、貴様らも用事が済んだら全員あの世逝きにしてやるからな!」
ハーティム国の将軍が声高に宣言して、高らかに笑った。
僕の胸に、一気に緊張感と恐怖が押し寄せる。だけど、それを出さないように努めた。場の空気が張り詰めて、諦めと不安感が漂っている。皆同じだ。怖いんだ。だけど、それと同時に諦めてもいる。
「紅説王は」と、ミシアン将軍が切り出した。場の空気が一気に変わる。恐怖感が吹き飛び、強い緊張感が場を支配した。
王は、どうなったんだ。
「君がいた地下牢とは別の牢に入れられているよ。この後、転移のコインで我が国に移動し、そこで処刑されるだろう」
バカな――。絶望と拒絶が押し寄せる。
「バカな! 各国でももはや、紅説様は英雄王だぞ! そんなことをすれば、各国の民衆だって黙ってないだろ!」
一瞬、僕が叫んだのかと思ったが、吠えたのはマルだった。こんなに必死な形相は初めて見た。
「そうでもない。魔竜を封じ込めた紅説王は、愛する聖女を蘇らせようとしたが、君達にそれは魔竜を蘇らせる危険があると反対され、各国から派遣されている者達を殺した。つまり、〝君達〟をね。そして乱心なされた紅説王は、人類を滅ぼそうとし、我々がそれを食い止めた。――と、そういう筋書きになるらしいからね」
「そんな嘘八百、誰が信じるか! 証人もなしに、民衆はそんなに愚かじゃないぞ!」
マルが怒鳴り、陽空が鋭くミシアン将軍を睨みつける。