レテラ・ロ・ルシュアールの書簡
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僕らは山を降りると転移のコインで条国へと戻った。
十日後には、獅間子に持ち帰られた転移のコインで再び驟雪の王都へ戻り、凱旋パレードに出る事になるだろう。
各国で魔竜退治をした際には、その国でパレードをすることになっていた。どこの国でも盛大で豪華なパレードになり、民衆は温かく迎えてくれる。特に、ヒナタ嬢に対する民衆の反応は熱狂的なものがあった。
あの容姿が故か、カリスマ性故なのか、英雄視され、多くのファンがいるくらいだった。もちろん、そんなことを気に留める彼女じゃないけど。
僕は色んな国や街が見れるから、この行事は大好きだったけど、ヒナタ嬢はめんどくさい。興味ないと言って、嫌っていた。
どうにかこうにか頼み込んでパレードに出席させるのは、他ならぬ同郷の僕の役目だったけど、これが毎回大変で仕方がない。
三回に一回は不機嫌な彼女に殺されかけるはめになる。そうなると、助けてくれるのは大概アイシャさんか燗海さんで、頻度はアイシャさんの方が高い。
アイシャさん、もしくは燗海さんがなだめすかして、なんとか転移のコインまで連れて行き、アイシャさんがヒナタ嬢を正装させたり、髪飾りをしたりして飾り立ててくれる。これが毎回のパターンだった。
ったく、三歳児かよ――さながらアイシャさんは母親で、燗海さんはお祖父さんだなって、毎回悪態をつく。もちろん心の中でだけど。
今回もそうなるんだろうなと、僕は帰って早々ちょっとだけ憂鬱だった。
ヒナタ嬢といると、晃のことを思い出す。あの微笑が未だに忘れられない。思い出すことで僕の癒やしになっているんだなと改めて思う。
(あ~! 逢いたいなぁ)
僕は情けない気持ちで廊下を進んだ。これから王に報告に行かなくちゃいけない。
帰ったらすぐに紅説王に報告しに行くのは僕の役目になっていた。
ヒナタ嬢はそういうことは出来ないし、燗海さんはああ見えて組織立った行動が苦手だったりする。戦いになれば別だけど、報告や文章の制作は苦手がってやりたがらない。驟雪国に報告するだけで精一杯だって苦笑していたっけ。
陽空が一緒の時は任すこともあったけど、大抵は一緒に報告しに行く。でも今日は二人はある事情から任務に同行してなかった。
「レテラ。お疲れさま」
落ち着いた声に振り返ると、アイシャさんが手を振って歩いてきていた。
「お疲れさまです」
「これから、報告でしょう?」
「はい。アイシャさんは、そろそろ時間ですか?」
僕は懐中時計を出して時間を気にする素振りをした。
「そうね。あと五時間あるけど、やる事が山積みで追いつかないの」
アイシャさんは困ったように口を尖らせる。
「結婚の報告ですもんね。しかも五年ぶりの帰郷とくれば、そりゃ色々準備もありますよね」
「ええ。そうなの」
肩を竦めたアイシャさんは幸せそうに口角を上げた。
「でも、驚いたなぁ。アイシャさんがあんなチャランポランと結婚するだなんて」
「レテラ。それは言わないでよ。私が一番びっくりしてるのよ」