レテラ・ロ・ルシュアールの書簡
アイシャさんはわざとらしく目を大きく見開いた。
「ハハハッ」と僕は笑って、
「陽空のやつは幸せ者ですね。こんなに美人で、気立てが良くて優しい人をお嫁さんに出来るだなんて」
「口が上手いわね。レテラは」
アイシャさんは嬉しそうに微笑んだ。でも本気にはしてないみたいだ。僕としては本音なんだけど。
結婚の報告を聞いたのは、二週間前の大広間だった。
魔竜討伐の報告をかねて、月に一度行われる定期会議の最後に陽空から報告があると言われて、皆の前でその話が発表された。
付き合ってたのはもちろん知ってたけど、あのナンパ男と結婚する決心を決めたアイシャさんに脱帽だった。今思い出しても、敬服する想いがある。ただ、心配がないわけでもないけど、あの男が相手だからな。
「そういえば、二人の馴れ初めってどんなんです?」
僕は無邪気を装って訊いてみた。
アイシャさんは眉を八の字に下げ、頬が僅かに赤くなった。
「ほら、アイシャさんに一度訊いた事があるけど、照れて教えてくれなかったじゃないですか。陽空も何故か教えてくれなかったし」
「つまらないでしょ。そんな話」
「まさか。大好物ですよ」
「もう」
大げさに驚いてみせると、アイシャさんは少しだけ頬を膨らませて笑った。可愛いなぁ。
「えっとね……」
アイシャさんは記憶を辿るように、目線を上に移した。
そして、少し緊張したように、「レテラは、覚えてる?」と尋ねた。
「ん?」
首を傾げて先を促すと、アイシャさんは口をへの字にぎゅっと結んだ。
「ほら、私が魔竜に脅えてたときのこと」
「ああ」
僕は静かに頷く。
「私、初めて魔竜の巣に出向いてからドラゴンが怖くなったのね。特に魔竜なんだけど。でも、ずっと隠してきたわ。それを、陽空は気づいてくれて、魔竜の巣から帰ってからずっと気にかけてくれるようになったの。それで、ちょっと気を許しちゃったのよね」
アイシャさんは照れて笑った。
「付き合ったのは、あの日よ。魔竜に脅えたのをレテラに見られちゃった日」
アイシャさんは僕を見て少しはにかんだ。
「それまで陽空は気づいてはいたけど、直接触れないように気遣ってくれたり、フォローしてくれたりしてたの。でも、その日はずばり、図星をつかれちゃってね。ケンカしたのよ。でも、結局仲直りして。その時に、告白されたの。私も自分でも陽空を好きになってたなんて、びっくりしたわ。でも、告白されたとき、すごく嬉しかったから、そういうことなんだろうなって思ったの」
「そうなんですか」
僕は微笑ましい表情を作りながら、内実は別のことを考えていた。あの日、あいつが言った言葉を思い出す。
アイシャさん、ごめん。それ、陽空の計画どおりです――。何て事を言えるわけもなく、僕はそのまま飲み込んだ。今、二人が幸せであることに間違いはないんだし。
「でも――」
不意にアイシャさんは顔を曇らせた。瞼に影が射し、瞳が暗く見える。