優しい彼と愛なき結婚

無言で立ち去る弟さんにお礼を言いたかったけれど、残念ながら口に出すことはできなかった。

"ありがとう"とは、綾人さんとの行為が嫌だったという意味だから。今の惑っている私には言えない。




温かい紅茶を飲み、少し冷静になった。

今日まで29年間、綾人さんはずっと私の側に居てくれた。9年前に両親が事故で亡くなった時、月島家は誰よりも私に寄り添ってくれた。

私に月島家を裏切れない。
例えこの心を偽ってでも月島家のために尽くそうと決めていたのに。

『結婚しよう』その一言で揺らぐほどの決意ではないと思っていたのに、今は動揺してしまっている。情けないよね。


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