聖女の魔力が使えません!~かわりにおいしい手料理ふるまいます~

「……私には、なにが正しい生き方かなんてわかりません」

いずみはポツリと告げる。
今もまだ、迷っている。聖女と呼ばれ、役立たずと呼ばれ、それでも彼の側に居場所を見つけた。
今はこの世界に来た当初に比べればずいぶん優遇されていると思うが、これが最上かどうかは分からない。

「まだ途中なのかもしれません。もしかしたら、人間は生きている間ずっと探しているのかもしれませんね」

その時々の、最適を。
だから人は努力をし続けるのだろうし、今よりもいい何かがあることを信じている。
希望無き人生は、暗闇だ。希望を抱き続けていられる間は、人は幸せなのかもしれない。

「……君といると、今からでも自分が生まれ変われる気がしてくるな」

横を向くと、アーレスが優しいまなざしでほほ笑んでいる。
いずみの胸が、静かに、けれどたしかに躍動する。頬が熱くなるのが分かって、いずみは顔を見せないように前を向いた。

「君は、俺にとってはたしかに聖女だ」

続けられた言葉は、これまでで一番の爆弾だった。

(う、嬉しい。そしてなんだかものすごく恥ずかしい)

だったらあなたは、私の心を守ってくれる、国一番の騎士様です。

そんな返し言葉が浮かんだが、口に出すのは恥ずかしく、いずみは両手で顔を押さえたまま、「ありがとうございます」と消え入りそうな声を出した。

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