聖女の魔力が使えません!~かわりにおいしい手料理ふるまいます~

湯あみを終えたいずみは、ジナに送られて自室へと戻ってきた。
いつも通りの日常が戻ってきたのだ。
だが、以前と違って隣のアーレスの部屋がとても気になる。

(お話しませんか……って言ってみようかな)

お互い気持ちを確かめ合い、ようやく両思いと分かったのだ。
恋人らしい触れ合いも、フレデリックに邪魔されて以降、何となくタイミングがつかめずにいる。
ここは勇気を出して誘うべきか。

いずみは意を決して隣の部屋に向かい、ノックする。
しかし返事はない。扉をこそりと開けてみると、部屋には誰もいなかった。

「ああ、イズミ様。アーレス様ならただいま湯あみのお時間です」

廊下の端からリドルが早足で近づいてきてそう言う。
どうやらいずみと交代で入りに行ったらしい。

「そう。ならいいの。別に用事があったわけでもないから」

「さようでございますか?」

リドルにはもの言いたげな顔をされたが、いずみはにっこりとほほ笑み、何食わぬ顔で部屋に向かう。
いずみとしては結構な勇気を振り絞ったのだ。もう一度それをするのは不可能に近い。

(いや、もう無理。今日の勇気は出し切ったわ)

ふらふらと部屋に戻り、ベッドにダイブする。
思えばずいぶん疲れていた。騎士団の食堂のみんなともなじめたし、それなりに楽しい時間を過ごしたとは思うが、やはり家はいい。心の安らぎ方が違う。
ふわりと柔らかい感覚はいずみを眠りの世界へと急速に連れていった。
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