聖女の魔力が使えません!~かわりにおいしい手料理ふるまいます~


アーレスが湯あみを終えて着替えているとき、リドルが浴室に入ってきた。

「旦那様、先ほど奥様がお部屋にこられたようですよ。湯あみ中ですと伝えたので、後で来られるかもしれません」

「イズミが?」

体がしっかり温まったアーレスの体からは、風呂上がりだというのに汗が出る。
薄手の夜着はぴったり体に張り付いていた。

「では、着替えを用意してくれないか」

反射的にそう答えると、リドルは異物でも見るような目を主人に向けた。

「……なぜですか?」

「なぜって……イズミに会うのにこの格好では」

「イズミ様はあなたの奥方様ですよ。夜に、夜着にガウンを羽織っただけの格好で訪れた奥様に、正装で対面する気ですか?」

リドルの言葉の意味がアーレスに正しく伝わるには時間がかかった。
しばしの沈黙の後、突然顔を赤らめ、汗を拭くような仕草で何度もタオルを顔に擦り付ける。

それを見ていたリドルは、沈み込みそうなほど深いため息をつく。

「なんだか心配ですね。私は邪魔しない方がいいのか、サポートすればいいのかどちらですか」

「さ、サポートって何をする気だ」

「あなた方を一部屋に引き合わせるくらいですかね。それとも、媚薬の類でも用意しましょうか?」

「いい! ちょ、落ち着け」

「私は落ち着いています。旦那様、そもそもあなたはどうしたいんです。結婚しておいて、ここまで奥様を放置していたのは、どうしてですか? 奥様が気に入らないのですか」

リドルが咎めるように目を細めてアーレスを見つめる。
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