聖女の魔力が使えません!~かわりにおいしい手料理ふるまいます~
給仕をしてくれていたスカーレットが皿を下げていき、残されたのはチーズやナッツのみ。
いずみが作ったジンジャークッキーは、先ほどから間髪入れずにアーレスが手を伸ばし続けていたので、すでに空になってしまっている。
(こんなに気に入ってくれたなら、また作ろう)
一本目のワインが開いた。すかさずリドルが次のワインの栓をあける。
酔いが回っているのか今宵のアーレスは饒舌だ。
「俺は、恥ずかしながら戦地にばかりいてな。……この平和な王都で、何をしたらいいのか分からんのだ」
零されたのは深いため息だ。アーレスが弱音を吐くとは思わず、いずみは黙って続きを待った。
「王城勤めの騎士団員はみんな体がなっていない。鍛えなおそうと意気込んではみたが、怪我人を出すようでは団長として失格だ。俺は……」
「……アーレス様」
それは意外な悩みだった。
オスカー王も言っていたが、アーレスはストイックで努力家だ。それは数日一緒に暮らしただけのいずみにもわかる。
だが、誰も彼もがアーレスのようにはできない。
才能がある人間には、才能のない人間のことが分からない。同様に自分が努力できる人間は、できない人間の気持ちなど分からないのだろう。
「アーレス様。まだ始まったばかりです」
いずみの声に彼は顔を上げた。雄々しくて逞しいと思っていたのに、酔って見上げてくる瞳は子犬のように頼りなげだ。