あなたの愛に包まれて
「お嬢様はご結婚までの打ち合わせ等でお会いしているだけです。」
剣持の言葉に父は待っていましたかのように話始める。
「剣持、お前を営業2課に移動させるのはそれが原因だ。」
剣持が再び頭を下げ一歩後ろへ下がる。
「福山財閥との縁談は福山財閥のためだと思ったら大間違いだ。神崎の利益のための結婚だぞ。そこに私情をはさむな。」
「・・・」
「神崎のためにお前がすべきことは相手の懐に入り、神崎の利益を上げることだ。私情に流されて役を全うできないならお前は神崎にはいらない。」
「自分の心を殺して、ただ死んだように生きろと?」
千晃の言葉に父が千晃を鋭い目で見る。
「お前の命など、駒にすぎん。それ以上を望むな。」
父の言葉に千晃がたたずむのを見て剣持はギュッと両手を握りしめた。
「要は済んだ。」
父の秘書が扉を開ける。

部屋から出るとき、剣持が頭を下げる目の前で、千晃はつぶやいた。
「あなたの娘は死にました。」
剣持が千晃を見ると千晃の瞳から輝きが消えていた。
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