あなたの愛に包まれて
婚約
「神崎さん、この婚約は政略的なもので、両財閥が経営の危機にあると噂されていますが、その件に関してお答えください。」
広いステージの上には千晃と匡祐が並んで座っていた。
その前には500人を超える報道陣が集まっている。それでも各社厳選した会社を呼んでおり、国内外たくさんの注目がされていることがすぐにわかった。
二人の婚約発表会見は全世界に生配信されている。
「私たちは以前から同じような境遇で育ち、お互いの存在を意識してきました。その中で結婚を意識するようになったのはお互いの家柄ではなく、私は福山匡祐さんという一人の人柄に惹かれたからです。」
千晃は用意された原稿通りの回答をした。
すると匡祐が千晃をちらりと見る。
千晃がその視線に気が付き隣を見ると匡祐が優しく微笑んでいた。

嘘をつくことには心が痛む。
それでも自分たちの背負っている社員の生活や人生を考えると、自分たちの感情だけでは動けないのが二人のもう一つの運命でもある。

そんな千晃の気持ちを知っている匡祐なりの気遣いだった。
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