エリート俺様同期の甘すぎる暴き方~オレ、欲しいものは絶対手に入れる主義だから~
 被害者である日菜子と拓海は、今後の一切の処分を監査部に委ねることにして会社を出る。日付はとっくに変わってしまっていた。

「タクシー二台拾えるかな?」

 日菜子は昼間に比べると交通量の減った大通りで、空車のタクシーを探す。ふたりの家は逆方向なので、当然二台必要だ。

「一台で十分だろ」

「え?」

 日菜子が聞き返したけれど、そのとき空車のタクシーがふたりの前に止まった。

「俺、日菜子を帰すつもりなんてないから」

 瞬時に彼の言葉の意味を理解して、日菜子は驚くと同時に胸が甘くうずいた。

 拓海が日菜子の手をとってタクシーに乗り込む。

(今日は拓海と一緒にいたい)

 それが今の日菜子の正直な気持ちだった。日菜子は返事をするかのように拓海の手を握り返した。


 ふたりを乗せたタクシーが到着したのは、拓海のマンションだった。そちらのほうが近いからという単純な理由だったが、お互い待てないのは同じ気持ちだった。

 タクシーの中でもずっと手は繋がれたままだった。そのせいかお互いの気持ちが加速度をつけて強まっていく。

 隣に立つ拓海と何度も目が会う。そのたびに胸が苦しくなるけれど逸らすことなどできなかった。

 これまで謹慎中、拓海は日菜子を気遣って何度も連絡をくれたし時間を見つけては会いにもきてくれた。その都度不安を和らげてくれた。

 彼もまた仕事をしながら犯人を見つけるという大変な日々を過ごしていた。彼の方が大変だったにもかかわらずいつも日菜子に優しくしてくれた。

 エレベーターに乗っている間も、日菜子は拓海の顔を見つめ続けた。
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