エリート俺様同期の甘すぎる暴き方~オレ、欲しいものは絶対手に入れる主義だから~
 すると急に軽くなった。それまで資料で邪魔されていた視界に、資料を手にした長身の男性が現れた。拓海だ。

 運ぶのを手伝ってくれるのかと思い、お礼を言おうとした。けれど先に彼が口を開く。

 その言葉に、日菜子は足を止めた。

「なあ、あんなすごい一本背負いどこで習ったんだ」

 日菜子は目をむいた。まさかあれを見られていたなんて。
焦った日菜子だったが、小さく息を吸って動揺をさとられないようにふたたび歩き出した。

「な、なんのことですか?」

「何って、今日駅で男を軽々投げてただろ、自分よりでかい男を軽々――っておい」

 廊下の向こうから総務部の女子社員が歩いて来るのが見えた。

 ここでこのまま話をしていたら聞かれるかもしれないと思い、日菜子がとっさに拓海の手をひっぱって資料室に連れ込んだ。

 バタンと扉が閉まるとほっと一安心した。

「なに、松風ってば案外積極的なんだな」

「ふ、ふざけないでよ」

 ニヤニヤと人の悪い笑みを浮かべる拓海に、声を荒げた。

「あはは。怒った」

 人が真剣なのに、どうしてこう不真面目な態度を取るのだ。怒りが増幅しそうになるのを抑える。

「あの、さっきの話だけど……人違いじゃないのかな。きっと南沢くんの見間違いじゃない? わたしそもそもA駅では降りて……あっ」

(しまった……)

 しかしもう遅い。目の前の拓海はニヤリと笑った。

「何も知らないはずのお前が、なんで痴漢騒動のあった駅がA駅だって知ってるんだ?」

 ああ、万事休す。自分のまぬけさを呪っても遅い。

日菜子は目をぎゅっと瞑ると、これ以上無駄な抵抗をすればするほど墓穴を掘るような気がしてあきらめた。

「今朝のこと誰にも言わないで、お願いします」

 隠すのをやめて、口止めに徹することにした。

資料を適当な棚に置くと、深々と頭を下げた。

「なんで? 別にそんなに隠す必要ないだろ?」

「でも、わたしは知られたくないの」

「だから、どうして?」

 思い出したくない過去を思い出しそうになって、ぐっと奥歯を噛んだ。

「どうしても……理由は言いたくない」

 ただの同期にどうしてそこまで詳しい話をしなくてはいけないのだ。

 頑なな日菜子の態度に、拓海が「わかった」と言う。

 まさかこんなすぐに引いてくれるとは思っていなかったので、思わず満面の笑みで顔を上げて拓海を見て……後悔した。
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