エリート俺様同期の甘すぎる暴き方~オレ、欲しいものは絶対手に入れる主義だから~
その日の午後、終業時刻まであと二時間。

 日菜子は遅刻をして遅れていた仕事を取り戻すように集中していた。

 時折頭に浮かんでくる悪魔のごとく笑う拓海の姿を、なんとか振り切りながらとにかく早く帰りたい一心で、仕事を片づけていた。

「みんな、ちょっといいか?」

 部長の声にフロアにいた面々が顔を上げる。日菜子も目を向けると部長の隣には、今最も見たくない拓海の姿があった。

 また今朝の悪夢を思い出しそうになった瞬間、部長が声を上げた。

「このたび一課の南沢くんが設計した、瀬野学習塾がデザイン賞を受賞しました! みんな拍手~」
 
おおっ~っという歓声とともに、拍手が沸き起こる。

 日菜子も驚きで今朝のことなどすっかり忘れて、部長の隣に立ちいつもより若干はにかんだ様子の拓海に惜しみない拍手を送っていた。

「南沢さんって、去年別の賞も受賞していました
よね? すごいなぁ」

 花が言うように、去年も別の賞の新人賞を受賞していた。そもそも賞の受賞だけでもすごいのに、二年連続となると皆が拓海を社内のエース扱いするのは至極当然のことだ。

「南沢くん、一言どうぞ」

 部長に促された拓海は、ためらうことなく口を開いた。

「実は最終選考に残ったと聞いた時点で、結構自信があったんです」

 拓海の自信に満ちた言葉に、周りからは「おぉ~」と笑い混じりの歓声が上がる。そんな周りに拓海は笑顔を浮かべた。

「そもそもあの設計はひとりで作ったモノじゃないですから。部長や先輩方のアドバイス。

この仕事に集中できるようにと、他の仕事を引き受けてくれた同期や後輩。

事務作業をしてくれたアシスタントの皆さん。たくさんの人の協力があった。

だから今回自信があったんです。みなさんのおかげです。ありがとうございました」

 拓海が頭を下げると、フロアが大きな拍手に包まれた。

 顔を上げた拓海は、本当に晴れやかで堂々としていた。

 こうして見ていると、魅力的な男だと思う。

 自信に溢れているが決して傲慢ではない。周りへの感謝や気遣いも持っていて、少し鼻持ちならない態度をしても、結局周りがそれを許してしまう。

それこそが、彼の魅力だと思ってしまうほどだ。

 そういう物怖じしない、堂々とした態度が日菜子には眩しくて仕方がなかった。

 同じ会社で同期でも、まさに別世界に住んでいる人間のように思える。

 だから彼と近付きたくないのだ。彼は自分にないものをたくさん持っているから。

 
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