アラサーですが異世界で婚活はじめます
 この世界の身分社会や貴族階級の在り方について理解はしているものの、なぜ伯爵家からの手紙一通でここまで浮足立つのか、美鈴にはよく飲み込めなかった。

 まだ正式に結婚の申込を受けたわけでもないのに……。

「ミレイ様……」

 その問いに、さすがに驚いたような表情を浮かべたジャネットだったが、髪を整えていた手を止め、美鈴の前に回り込んで答えた。

「初めての舞踏会で伯爵家の御曹司のお目に留まるなんて、素晴らしいことですわ。それに……」

 腰を屈めて美鈴と目線を合わせるとふんわりと優しい笑みを浮かべる。

「ドパルデュー家のフィリップ様は大変真面目で浮いたお話もいままで出たことのない方。そんな方のお心を動かすほど、お嬢様は魅力的でいらっしゃるのですよ」

「それは……。 あの夜は、着飾っていたから……。リオネルのドレスのおかげでしかないわ」

 つい、リオネルの名前を出してしまったことに、美鈴は自分でもハッとする思いだった。

 ……もし、伯爵家から手紙が来たことを彼が知ったら。一体、どうするのだろう……。

 そんな考えがふと頭をよぎり、美鈴は軽く頭を振った。

「ごめんなさい、ジャネット。とにかく今は、早く身支度をしたほうがいいわね……」

 ジャネットにそう言ってから美鈴は鏡の中の自分の顔を見つめた。

 なぜ、わたしは……リオネルのことを……? こんな時にリオネルのことが頭から離れないなんて。
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