アラサーですが異世界で婚活はじめます
「想像以上の仕上がりだ、美しい……!」

 神妙な表情で賛辞を述べながら、リオネルはさらに一歩、美鈴との距離をつめる。
 海外映画スターと並んでもきっと見劣りしない、美丈夫のリオネルに至近距離で見つめられて、美鈴はさすがにたじろがずにはいられなかった。

 ただでさえ、これまで着たことのないような上半身を露出した装いに戸惑っているのに、初めて出会った時から自分に対して好色そうな視線を隠そうともしないリオネルに気圧(けお)されて、一歩、後ずさる。

 そんな美鈴の戸惑いを鋭く察知したリオネルは、ふっと柔和な笑みを浮かべ、美鈴に近づくと軽くその手をとった。
 そのまま、優しく手を引いて大きな姿見の前に彼女を連れていく。

「ミレイ……君の、白い肌を引き立てるオールドローズ、滑らかな肩と細いウエストラインを惜しげもなく出したデザイン…間違いなく、君は社交界の華になれる」

 リオネルの見立ては確かだった。

 上質のシルクのような光沢を放つ深いバラ色のドレスによって、色白の美鈴の肌は今までに見たことがないくらい輝いているように見えた。 

 デコルテが大きく開いたデザインに合わせたプラチナ色の首飾りも、華奢なチェーンを幾重にも重ね、ピジョン・レッドのような深みのある赤石を主とした宝石が散りばめられた、繊細で上品なデザインだった。

 こんな「自分」は知らない……
 美鈴は鏡の中の自分をただただ茫然(ぼうぜん)と眺めていた。

 露わな肩を両手で優しく抱いて、鏡の中ので視線を合わせたリオネルの目が笑い、形のよい唇が見せつけるようにゆっくりと美鈴の耳元に降りてきて囁いた。

「……君をエスコートするのが楽しみで仕方ない」

 舞踏会……それは華やかな、貴族令嬢の婚活の舞台

 つい2か月前まで一生を仕事に捧げる決心をしていた美鈴には、想像もつかない女たちの戦場
 この「世界」で貴族令嬢として生きていくためには、避けて通ることができないステップ……

 鏡の中の自分をまじまじと見つめた後、美鈴は今日何度目になるかわからない深いため息をついた。
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