アラサーですが異世界で婚活はじめます
 毎月、3日は期限を遅れて提出される柴田のレポートは、全営業社員からレポートを受け取り、集計し、分析を加えた上でマンスリーレポートとして本社へ報告する業務を担う美鈴にとって頭痛のタネだった。

 レポートは英語で提出が義務付けられているのだが、柴田の報告には単純なスペルミスから文法の間違い、果ては100万単位の数字が間違っているということもザラではなかった。

 毎月毎月柴田の提出してくるレポートの内容をチェックし、間違いを一つ一つ修正し、売上データベースと突き合わせ、本人に指摘して確認を取り、最終報告書をアップデートする作業に美鈴は心底うんざりしていた。

 もちろん、他の営業担当だってミスをすることはある、でも、彼らはメールを打ちさえすれば遅くともその日のうちに訂正版を提出してくる。
 営業部門で、毎回毎回、一度の例外もなく、提出期限を遅れてくるのは彼くらいなものだった。

 それでいて、柴田の営業成績もレポートと同じく悲惨なものかというと、その逆なのだった。
 レポートのクオリティは最低中の最低でも、その数字は目を(みは)るものがあった。
 新規契約の獲得数、売上総額をみれば、若手の中でも、柴田がとびぬけて優秀な営業マンであることは間違いなかった。

 自分の方を見もしない、美鈴の冷ややかな対応に臆することなく、柴田は人好きのする笑顔でニコッと笑った。

 営業マンらしく、きっちりと額を出してはいるが、もともと少しクセがあるのだろうか、軽くウェーブのかかった、柔らかそうな髪。
 クリッとした目といつもやんわりと笑っているような口元の、いわゆる甘いマスクの彼は年齢問わず社内の女性陣に人気がある。

「いつも、有坂さんには助けてもらっちゃって……。ほんとに感謝してるんだよ」

 美鈴にしてみれば、柴田を「助けている」意識は毛頭ない。むしろ「迷惑をかけられている」というほうがよほどしっくりくる。

「……仕事ですから」

 仕方なく、あなたのしりぬぐいをしているんじゃないの、という嫌味をぐっと美鈴は飲み込んだ。

「それで、ほんのお礼にと思って……有坂さん、好きだといいんだけど」
< 14 / 184 >

この作品をシェア

pagetop