アラサーですが異世界で婚活はじめます
 ふと、そんな考えが頭に浮かんでしまった美鈴は急いでそんな不穏な想像を振り払おうとした。

 まさか、そんなことがあるはずがない……でも、それならなぜ、よりにもよってこんな場所に横たわっているのだろう?

 急に不安が黒雲のように胸の中を覆っていく。

 怪我をしているようにはみえないけれど……頭を打ったとか? せめて、息をしているかどうかだけでも……。

 フェリクスまであと数歩の位置まで来ていた美鈴は、思い切って彼のすぐ傍まで歩を進めた。

 彼の横に膝をつき、改めて顔を覗き込んだその時。

 流麗なカーブを描く眉がピクリと動き、端正な顔立ちが一気に生気を帯びた。

「……ん、ん?」

 かすかに開いた唇から呟きが漏れ、ゆっくりと開かれたアイスブルーの瞳が数度、瞬いてから細められる。

「……君……は」

 目覚めたばかりの虚ろな瞳が美鈴の姿を映し出した時、フェリクスは確かにそう呟いた。

「……お、お久しぶりでございます」

 他に何と言っていいのか皆目わからず、美鈴は何とかぎこちない笑顔を作ってフェリクスに呼びかけた。

「……!」

 ようやく意識がハッキリしたのか、フェリクスは瞳を見開くと急いで上半身を起こした。

 薄青のシャツの胸飾りが揺れ、ほどけた亜麻色の髪がふわりと宙を舞う。

「……フェリクス様?」

 こちらに背を向けて座っているフェリクスの表情は美鈴には見ることができない……のだが、気のせいだろうか?

 ほんのわずかに見える彼の横顔――頬のあたりがうっすらと紅く染まっているように見える。
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