アラサーですが異世界で婚活はじめます
 青く澄んだ瞳と人形のように整った容姿のせいか、一見、冷徹そうな印象に見えたフェリクスだが、今の彼は温かい光を宿した真剣なまなざしで美鈴を見つめている。

「すぐ近くに私の別邸があります。ひとまずそこで、足の手当てを」

「あの、でも……わたし、実は、連れを探していて……彼もわたしを探していると思いますし、このまま失礼しようかと……」

 ただでさえ男性慣れしていない美鈴としては、いくら貴公子然とした美青年であっても、よく知らない男性の家に招かれるという事態は避けたかった。

 それに、先ほどの強引な黒髪の男から受けた恐怖が、まだ生々しく思い出される。

「このまま(ここ)に居ても、じきに、雨が降り出すことでしょう」

 空を見上げたフェリクスにつられて、美鈴が顔を上げると、木々の隙間から見える空が先ほどよりも暗くなっているのがわかる。

「何の気兼ねも要りません。私の家で手当が終わり次第、馬車を出してお連れの方の元へお送りします。」

 フェリクスの背後から吹く風によって、彼のつけている香水だろうか、さきほどは緊張のあまり気づかなかったアイリスのような清廉な香りが香ってくる。

 ……確かに、痛む足を引きずってこのままこの広い森を迷い続けるのが賢明ではないことは、美鈴も百も承知している。

 なおも逡巡(しゅんじゅん)する美鈴を安心させようと思っての所作だろうか、青年は美鈴の前で膝を折って彼女を見上げた。

「……私はアルノー伯爵家の者です。神に誓って、貴女に無礼な真似はいたしません」
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