アラサーですが異世界で婚活はじめます
 その瞬間、遅くなった美鈴の帰りを今か今かと待っていたルクリュ子爵夫人が美鈴の部屋をノックした。

「……おっと、残念ながら「時間切れ」のようだな」

 ドアを横目で見やってから、リオネルは美鈴にニヤリと笑ってみせると、丁寧に彼女の足を下した。

 そのまま、さっと立ち上がり、ドアに向かって大股で歩いていくと優雅な動作でドアを開けて夫人を美鈴の部屋に招き入れる。

「ああ、よかったこと! 帰りが遅いので心配していたのですよ」

 美鈴の顔を見て安心した夫人は、安堵の表情を浮かべながら、しずしずと部屋の中に入ってきた。

「リオネルがついているのだから、きっと大丈夫だと思ってはいたけれど……」

 チラとリオネルに視線を送った後、夫人は心配そうに美鈴の顔を覗き込んだ。

「叔母上、ミレイ嬢はこの通りお連れしましたが、足に少々靴擦れが……」

 心底すまなさそうな表情で、リオネルはルクリュ夫人に軽く頭を垂れた。

「まあ! それはいけないわ。すぐに手当をしなければ……。リオネル、今日は本当にご苦労様でした」

 やんわりとリオネルに退出を(うなが)し、ルクリュ夫人は急いで美鈴付きの侍女を部屋に呼んだ。

「いえ、とんでもない……。では、ミレイ嬢、また、近いうちに!」

 扉を閉める瞬間リオネルは美鈴にだけ分かるようにヘーゼルグリーンの瞳を細めた後、そっと片目をつむって軽く手を上げた。

 朝の爽やかな空気の中でまどろみつつ、その瞬間のリオネルの顔をふと思い浮かべた後、美鈴は再び心地よい眠りの世界に引き込まれていった。
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