アラサーですが異世界で婚活はじめます
 頬に伝わる彼の(てのひら)の熱さと、同じく熱量をもった息づかいを耳元に感じて、美鈴は徐々に落ち着きを取り戻しつつあった。

 美鈴が今、感じているその「熱さ」はこの世界に来て初めてリオネルに触れられた、あの時の感覚をまざまざと思い出させるものだった。

 最初は、戸惑いしか感じなかったその瞬間の感覚が、今では……なぜだかひどく懐かしく思い起こされてくることに驚きを感じながら、美鈴は目の前にそっと差し出されたリオネルの手を取った。

 美鈴の手を取り、大広間の中央に進み出ながら、リオネルは美鈴に向かって軽く片目を閉じた。

 次の瞬間、演奏の始まりを待つ他のペアと同じように、リオネルは片手を美鈴の背中に添え、指を絡ませてつないだ手を高く掲げると彼女と向かい合う形で静止した。

 美鈴も、リオネルの肩にそっと手を添え、つないだ手の温もりを感じながら、そっと目を伏せて「その時」を待った。

 管弦楽団の指揮者が楽隊に向かって魔法の杖のように指揮棒を振った。

 その合図とともに()ず管楽器がゆるやかな音色を奏でだし、それに続いて弦楽器の演奏が浜辺に繰り返し寄せ来る波のように打ち寄せる。

 楽隊の演奏に合わせて、大広間に集まった人々が一斉にステップを踏み、踊り始めた。

 男性の踊り手のリードに合わせて貴婦人たちがターンする度、色とりどりのドレスが丸い円を描いて揺れる様は、まるで一斉に開花した花が会場を埋め尽くしていくようだった。
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