執着求愛~一途な御曹司の滴る独占欲~
「男は所有欲が強いから、未練がなくても元カノに恋人がいたら面白くなく感じるんですよね。ちょっとした嫉妬と酔った勢いで、別にまどかさんを好きでもないのについ手を出しちゃったのかもしれませんね。よくある一夜の過ちってやつっすね」
自分だってありえないと思っていたはずなのに、他人の口から『別に好きでもないのに』と言われると、胸の奥がじくじくと痛む。
「まどかさん。きっとその元カレは自分の過去の彼女全員に所有欲を持っちゃうタイプだから、自分だけが特別なんて勘違いしちゃだめですよ」
「ちょっと瞬くん。そんな言い方ってないと思う!」
遠慮のない瞬くんに、朋美が眉をひそめて抗議する。
私が傷つかないようにと朋美が気を使ってくれているのが伝わってきて、ぎゅっと奥歯をかみしめてから気を取り直して顔を上げた。
「大丈夫。実際瞬くんの言う通りだと思うし、間違っても雅文とよりを戻したりしないから安心して」
必死に平気なふりをしながら、開いていた雑誌をバッグに入れて「じゃあ、そろそろ帰ろうかな」と立ち上がる。
「まどか、もう帰るの?」
「土曜の朝からおしかけてごめんね。色々話せてすっきりした。ありがとう」
「ううん。気にしないでいつでも遊びに来てね」
玄関に向かう私を、朋美と瞬くんが並んで見送ってくれる。
そして靴を履こうとした私の足元を三人で見下ろして、一瞬その場がしんと静まる。
「……まどかさん、ホテルのスリッパで逃げ出してくるなんて、よっぽど動揺してたんすね」
しみじみとそうつぶやいた瞬くんの言葉に、反論もできずに黙り込む。
客室用のタオル地のスリッパは、情けないほどくたくたになっていた。