執着求愛~一途な御曹司の滴る独占欲~

『お父さん、行かないで』そう言って泣いてすがった私を見下ろして、父はめんどくさそうにため息をついた。
 円満で幸せな家庭だと思い込んでいたけれど、父には愛人がいたのだとあとから聞かされた。ずっと騙されていたんだと知ったときの絶望感を、今でもはっきりと覚えている。

「まどかさんはせっかく美人さんなのに、不器用だなぁ」

 私たちのやりとりを見ていた瞬くんは、あきれたようにため息をついた。

「不器用なんじゃなくて、利口なの。わざわざ無駄に傷つかないように自衛しているだけ。そんなわけで、雅文が嫉妬したなんてありえないから」

 気持ちを切り替えてはっきりと言うと、瞬くんは「いや、嫉妬したのは間違いないかも」とつぶやいた。

「でしょう?」
「まさか!」

 瞬くんの言葉に朋美と私が同時に反応して声が重なった。私たちふたりの視線を受け止めながら、瞬くんはあごに指を添えた探偵みたいなポーズで話し出す。

< 28 / 283 >

この作品をシェア

pagetop