real feel
頭を下げたまま動かない父に、声をかけた。

「もう頭を上げてください。私の方こそ長い間ごめんなさい。話を聞こうともせず、勝手にいじけて。本当に子供でした。……私、お父さんとお母さんに聞きたいことがあるんです」

やっと顔を上げた父が母と顔を見合わせた。
私の緊張を察したらしい主任が、テーブルの下で手をギュッと握りしめてくれる。
ひとつ深呼吸をして、心を落ち着けてから、口を開いた。

「麗花さんから聞いたんです。私ができたから、麗花さんはお父さんと結婚できなくなったんだって。私が麗花さんの幸せを奪った張本人……。そうなんですか?」

口にした途端に空気が張りつめたように感じた。
重苦しさに圧し潰されそうになりながら、必死に主任の手を握り返す。

やっぱりそうなの?
私は幸せの略奪者だったの?

「違うわまひろ!あなたじゃない……。麗花さんの幸せを奪ったのは、私よ」

お母さん……。

「それは違う!まひろに責任が無いのはもちろんだけど、広美が悪いんでもない。私が軽率だったんだ。麗花さんとの結婚の話は親同士が決めたことだから、私は本気にしてなかった。しかし麗花さんは本気だった……」

それは麗花さんも言ってた。
北国でお嫁さんになる日を待ちわびていたって。

「だから私の頭の中に"広美が私の子を身ごもったら、広美との結婚を認めてもらえる"そしたら麗花さんも諦めてくれるだろうって考えが芽生えてしまったんだ」

父は大学進学で北国を出て、従姉の道子伯母さん(イチにぃとシュウにぃのお母さん)を頼るようになった。
もう結婚していた道子伯母さんの旦那さま(イチにぃとシュウにぃのお父さん)の妹である母と出逢い、恋に落ちたのだそうだ。

「麗花さんを傷つけてしまったのは私だ。しかもその軽率な行動のせいで、麗花さんだけでなく広美やまひろまで傷つけてしまう事になるなんて、そこまで考えが及ばなかった」

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