real feel
『どうする?』と聞かれたって、直ぐに言葉なんて出て来ない。
ここで俺が素直に『教えてくれ』と言えば気が済むんだろうか。
その情報は欲しいのが本音だが、コイツに頭を下げるのは俺のプライドが……。

「ふーん。大して気になってなさそうだな。じゃ、さっき聞かれた『誰か』ってことだけ教えてやるよ。」

「……で、誰なんだ?」

「…………木原、だよ」

木原?もしかして俺の前任の教事1課、課長だった男。
木原譲司……。

「どうして木原が?今はアメリカだろ」

「急遽本社から呼ばれて一時帰国中らしい。意外と情報に疎いんだな」

くっ……。
ここ最近"K作戦"に気を取られ過ぎだったか。

「木原は奥さんと一緒じゃないのか?」

「よく知らないが、奥さんは一緒じゃなかったらしいぜ。木原は専務に報告やら何やらで呼び出されてたらしいが、今頃は社内でどうしてるんだろうな。懐かしい馴染の部下にでも会っているかも……」

懐かしい部下って……まひろのことか!

「悪い!ちょっと急用思い出した。総務部長がじきにここに来るから待っててくれ」

先輩に小久保を引き渡すまで常務室を出ない約束だったが、のんびり待ってる訳にいかなくなってしまった。
なんだかとてつもなく嫌な予感がする。

まひろ…………。



先輩に報告だけはしておくべきだろうと携帯を取り出し、そこで電源を落としていたことに気付く。
電源を入れると、菜津美からメールが来ていた。

『一弥さん、さっき木原課長が総務に来たらしいの。まひろのことを聞き出していたっていうんだけど、大丈夫かな。私まひろとは話したらいけないと思って連絡できずにいるの。どうしよう』

メールが来たのは30分以上前だ。
総務ってことは先輩が何か知っているかもしれない。
どうせ報告するつもりだったし、丁度良かった。
総務部長である先輩に電話をかける。

「もしもし宮本です。終わりましたので常務室に早めにお願いします」

『そうかご苦労さん。こっちも手はずが整ったから直ぐに向かう。いま常務室にいるのか?』

「いや、すみません。ちょっと懸念事項ができまして。ところで先輩!木原が総務に顔を出したそうですが、何か話しませんでしたか?」

『ああ少しだけ話した。教事1課の事とかな』

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