real feel
ガチャ……と、音はしたもののドアは開かない。
ガチャガチャガチャガチャ。
ノブは空回りするばかりでちっとも手ごたえを感じられない。
これって鍵がかかっている訳ではなさそうだな。
こんな具合なら誰かが気付いて直せばいいだろうに。
自分で直せないとしても、総務にでも言えばすぐに直すはず。

しかし本当にこの中にまひろがいるのか?
部屋の中はシーンと静まり返っているようだけど。
この資料室は奥行きが深く、入り口からでは完全に中の様子を把握する事は不可能だ。

それじゃ、部屋の奥の方に引っ込んで何をしているというんだ。
物音すら聞こえないような今の状況じゃ、まひろの無事を確認する事が出来ず苛立ちが募るばかり。

いっそ思いっきりノックして中にいるであろうまひろに呼びかけるか?
手を振りかざそうとした時に、やっと総務まで行ってきたらしい海東が資料室までやって来た。

…………野次馬まで引き連れて。

「佐伯、鍵は総務にはなかった。ちょっと前に資料を探したいからって鍵を借りに来た人物がいたらしい。それでな、その人物って……」

とにかく誰かが資料を探すっていうのを口実に、まひろを誘ってこの資料室と言う名の"密会スポット"に連れ込んだという訳だな。
そういう事なら、もう遠慮なんかしてる場合じゃねえ。

ドンドンドンドン!!
大きく腕を振りかざし、ドアを何度も叩きつけた。

「おい、誰かいるのか!聞こえたら返事をしてくれ!おい聞こえるか?俺だ佐伯だ!蘭さん、そこにいるのか!?いたら返事をしてくれ!!」

野次馬がザワザワとうるさいが、構ってなんかいられるか。
しかしそんなに騒がれたら微かな物音を聞き逃してしまう。

「頼むから静かにしてくれ!騒ぐんだったらみんなどっかに行ってくれ!!」

いかん、俺まで大声で怒鳴ってしまった。
その直後にざわめきの中でもハッキリと俺の耳に届いたのは……。
まひろの叫び声。

『きゃぁぁぁ!!』

瞬間、俺は我を忘れて力任せに資料室のドアに飛び蹴りを喰らわせていた。
ガタンッ!!と無様に壊れてしまったドアを踏み越えるようにして中へと急ぐ。

「まひろっっ!!!!!」


< 182 / 221 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop