real feel
──5月13日。

「あ、主任!ありましたよコレですきっと」

DVDのレンタルコーナーで、お目当ての映画を見つけてテンションが上がる私。
もちろん恋愛物で、最近特に関心が高い"オフィスラブ"と呼ばれるカテゴリーのもの。

「難攻不落の冷徹エース……。婚約者の裏切りから始まる、不器用な2人の……」

作品説明を食い入るように読んでいるのは……主任の方。
私が「どうですか?」と聞く前に、さっさとカウンターに持っていってるってことは、観たいと思ってくれたんだよね。



「ごちそうさま。片付けは俺がやるから、お前はゆっくりしてろよ」

今日のお昼は簡単なパスタにした。
いつも主任は私が作った料理を「美味い」と喜んで食べてくれる。

「2人でやった方が早く終わるから、私も一緒に」

1人でただ座ってるなんて、つまらないから。
同じ空間に居られる幸せをより感じたい。
主任も私の心を読んだのか、クスッと笑った。

「じゃ、俺が洗ってすすいだやつをコレで拭いて」

食器用の布巾を手渡してくれた。

「で、営業はどうだ?慣れなくて大変だろ」

「まぁ、事務の仕事は慣れてきました。課長の補佐なんて大役だと、最初は緊張しましたけど……」

平日はお互い忙しくしているため、週末のデート中でも仕事の話をすることが多い。
今日は吉田先生は終日不在とのことで、お泊まり決定。
バッチリ用意してきたし!



──23:00。

「……ほら、まひろ。拭けよ」

ティッシュを箱ごと渡された。
借りてきたDVDを観終えた私は、例によって今日も号泣しているのだった。
社内恋愛って、いろんな障害があって難しいんだね。

「早く心を落ち着けてくれよ。泣いてる女を無理矢理って趣味はないからな。今だってかなり我慢してるけど……」

またサラッとそういうことを言うんだから。
今の台詞で涙なんか引っ込んだんだからね……。
ほら、このティッシュで目元を押さえたらもう涙の跡も消えた。

「……主任、これでOKですか?」

ニッコリ微笑んで、主任の首に腕を絡み付かせた。
静かに瞳を閉じると、期待通りの熱が唇に与えられる……。

まだあと半分残っている、営業1課での実務。
そこで何を知らされるのか?
この時、幸せに包まれている私はまだ知らない。

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