【完】俺様彼氏は、甘く噛みつく。
音羽の静かな声が小さく続ける。
「衣川さんって流されやすいよね。強引な人に引っ張られちゃうところがあるというか」
「だから今宵は俺のこと好きじゃないとか言いたいわけ?」
「そういうんじゃないけど」
フッと不敵な笑みを浮かべる音羽。
「こっちは君と違って強引なこと何一つしなかったけど、彼女は俺の隣が"居心地いい"って言ってくれたよ」
……”居心地いい”ねぇ。それがなに?
「そのわりに忘れられてんじゃん」
一瞬ムッとした顔を見せた音羽は、ため息混じりに言った。
「まぁだから、君みたいな不純な動機で彼女に近づく男、俺は許せないんだよ」
「不純な動機って?」
「言わなくてもわかるよね? 自分の胸に聞いてみたら? "S中の爽やか王子"だっけ?」
久々に聞いたな、それ。
「……ストーカーかよ。調べんな」
「とにかく、君みたいな人に衣川さんは渡したくないんだよ」
「へー、そりゃご愁傷様。俺のもんでごめんなぁ?」
って、むかつくからこその笑顔で返すから。
いや、そんなのどうでもいいんだって。
「今宵はいつ教室戻ってくんの? 俺お前と話してる暇あんなら今宵に会いたいんですけど」
「……。うちのクラス次の授業は選択だから、戻ってこないよ」
話にならないと言いたげな目を向けて、音羽は去っていく。