COFFEE & LOVE―秘書課の恋愛事情―


【…まもなく……に到着します】

何を言っているのかわからないほどの小さなアナウンスの声。
少しして電車は徐々に速度を落として、ホームへ停車する。

扉が開いた瞬間。

席から立ち上がると
目の前、僅かに開けた道を間を縫うように通り抜け、ホームへ飛び出した。

スマートフォンを取り出すと、電話帳を開き
彼の名をタップする。

耳に無機質な呼び出し音が鳴ると、すぐにその行動を後悔した。

やっぱりやめよう、そう思い耳からスマートフォンを離そうとした時。

『もしもし!』

居酒屋にでもいるのだろうか、声の後ろからガヤガヤと賑やかな音が聞こえる。

「…もしもし」

電話口から声が聞こえた、その声にホッとする。
けれど溢れ出す感情は何一つ言葉にならず、次の言葉を発することができない。


『どうしました?

…昭香さん?』

私の名を呼ぶ声に重なって、大きな音をたててホームに電車が入ってくる。
何か話さなきゃ。動かない頭をフル回転して、言葉を探す。
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