COFFEE & LOVE―秘書課の恋愛事情―
騒音が止む。
『…今すぐ行きますから』
そう言って電話は切れた。
彼のマンションへの道のりを一人きりで歩く。
煌びやかな街。
キラキラ笑顔を浮かべる人達。
やっぱり私はここには不釣り合いだ。
物語の主人公に私はなれない。
今までもずっとそうだった。
きっと素直で可愛くて頑張り屋で。でも少し抜けてて、みんなに愛される。
そう、理央みたいな。
ヒロインは、そういう子だと決まっている。
そうわかっているのにどんどんそれから遠ざかっていく私。
彼と身体を重ねるたび、私は更に私のことを嫌いになっていった。
視線の先、もう少し歩けばマンションが見えてくる。
湧き上がった思いに歩を緩め、立ち止まる。
足元を見ると、履きなれたピンヒールのパンプス。
この足で歩いてきた、ずっと。
いつから私は自分の足で立ち上がることも、歩くこともできなくなったんだろう。
もしここで立ち止まって、引き返すことができたら。
私は私に戻れるのだろうか?