COFFEE & LOVE―秘書課の恋愛事情―

騒音が止む。

『…今すぐ行きますから』

そう言って電話は切れた。


彼のマンションへの道のりを一人きりで歩く。
煌びやかな街。
キラキラ笑顔を浮かべる人達。

やっぱり私はここには不釣り合いだ。

物語の主人公に私はなれない。

今までもずっとそうだった。

きっと素直で可愛くて頑張り屋で。でも少し抜けてて、みんなに愛される。

そう、理央みたいな。
ヒロインは、そういう子だと決まっている。

そうわかっているのにどんどんそれから遠ざかっていく私。
彼と身体を重ねるたび、私は更に私のことを嫌いになっていった。

視線の先、もう少し歩けばマンションが見えてくる。

湧き上がった思いに歩を緩め、立ち止まる。
足元を見ると、履きなれたピンヒールのパンプス。


この足で歩いてきた、ずっと。

いつから私は自分の足で立ち上がることも、歩くこともできなくなったんだろう。

もしここで立ち止まって、引き返すことができたら。

私は私に戻れるのだろうか?
< 167 / 449 >

この作品をシェア

pagetop