COFFEE & LOVE―秘書課の恋愛事情―

『そういうわけにもいかないですから』

彼がそう言って困ったように笑ったその時、最寄り駅へ到着した事を知らせるアナウンスが流れる。
ゆっくりと電車が停止すると、座席から立ち上がった彼に続いた。

雨の香りが立ち込めるホームに降り立ったその時、(おもむろ)に彼がこちらを振り返った。

『帰り、本屋寄ってもいいですか?』

彼は私が頷いたことを確認すると、優しく微笑んだ。

そう、考えていなかった訳ではない。

けれど、彼の世界の中に私がいる。
それだけでこんなにも嬉しくて、幸せで堪らなくなる。

私の考え過ぎで先走って、この瞬間に感じる幸せを見過ごしてしまいたくない。

それに、未だに私の心臓は彼の笑顔を見ただけで、こんなにも高鳴っている。
幸せにメーターがあるのならば、私のそれはとっくに振り切れているのだろう。

これ以上何かを望んだら、気持ちがオーバーヒートしてしまいそうだ。
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