彼はネガティブ妄想チェリーボーイ
そこにダッダッダッダッという階段を降りてくる音がかすかにした。
沙和だ!

ドキドキ。

沙和が厨房脇にあるのれんをくぐって来る。
シンプルなTシャツとゆるめのパンツ姿。
どうせ寝ながら漫画読んでたんだろ。

俺を見つけて少し驚いた顔をする。

「珍しいね?」

だろ?
今日の俺、早いだろ?

「うん、ちゃちゃっと食って帰るわ。」
「なんで?」
「なんでって、テスト前だから。」
「ああ・・・そっかあ。」

沙和はテストのことを忘れてたかのように、ため息まじりのような声で返してきた。
すごく憂鬱そうな顔。

こいつ、勉強全然してねえな?

「なに、その顔。」
「え?」
「ちゃんと勉強してんのかよ。」
「ご飯食べたらやるよ。平良もここでやっていけばいいのに。」

沙和がいつものテンションで言う。

ノンノンノンノン
テスト勉強を沙和と一緒にするなんて、俺的には絶対やってはいけないことなんです。

なぜなら・・・

「・・・集中できねえだろ。」

集中できないから!
当たり前ですね!
好きな女と勉強したってはかどりませんよね!

宿題やる時も、一人でやる時の半分も進まない。
しかも、沙和の質問に答えたくて仕方なくてウズウズしてしまう。

沙和は「ああ〜」と店内を少し見る。

「だよね、ごめん。うるさいもんね、ここ。」

そうじゃねえ〜〜〜〜
全然そうじゃねえ〜〜〜〜

「そういう意味じゃねえよ。」

やべえ、ちょっと笑える。

ああ、米も漬物もなくなった。
ほとんどすれ違いだったな。
そろそろ帰らないと。

俺はお膳を下げに行く。
途中で沙和の分のご飯を運ぶおばさんとすれ違う。

「あら、置いといていいのに。」

おばさんの言葉に「大丈夫です。」と軽く返す。

「いただきまーす。」

沙和の声が聞こえてきた。
戻って来ると沙和がちょうど食べ始めるところだった。

「じゃあ俺帰るわ。」

沙和が少し珍しい顔をして「ほんとに帰っちゃうんだね。」と言う。

そうだ、俺は沙和との時間を犠牲にして、やらないといけないことがあるんだ。

引き止めるな。

「うん、じゃ。」

そう言ってドアに向かう。
厨房に「ご馳走様でしたー!」と声をかけて店の外に出る。

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