彼はネガティブ妄想チェリーボーイ
話がひと段落した。

アレを言わないと、アレを。
さりげなく。

「あ、そうだ。」

話題の切り出し方のわざとらしさに自分で笑いそうになる。
下手過ぎる、俺。

大丈夫か?
最後まで言えるのか?

「壮行会の後に沙和に書いてもらったやつ、もう全然見えなくなってきたんだけどさ」
「ああ、ボールペンで書いたやつ。」

少し考えた後に、沙和が思い出したように言う。

頑張れ、俺。

「試合中、たまに帽子外すと書いた跡の点々だけが目に入って笑いそうになるから、あれちゃんと書き直してよ。」

言った!
言った!

何て返ってくる!?

「なに、笑いそうになるって・・・。」

良かった、笑ってる!

「いいから書き直して。」
「分かった。」

きたーー!
オーケーもらえた!

「じゃあ書くから貸して、帽子。」

沙和が手を差し出してきた。
・・・
言わないとダメだな。
っていうか、本当はそっちが目的なんだ。

「帽子、俺の部屋。」

そう言うと、「え?」と沙和の表情が曇る。

ダメか?

「あとでちょっと来て書いてよ。」

俺の言葉に、沙和は「え・・・わかった。」と固まったっきり、会話がなくなった。

あ、これはすごく嫌がってる。

そうだよな、好きでもない男の部屋上がるなんて嫌だよな。

俺はどうすればいいのか分からず、20時からの2時間番組に目を向けた。

どうしよう、いつ部屋に誘うんだ、俺。

刻々と時間が過ぎていく。

沙和も俺もテレビを見るばっかりで会話がない。

明日も学校だし、そろそろ誘わないといけないぞ。
そうは思うものの、テレビも面白いしタイミングがつかめない。

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