素直になれない夏の終わり

「……何か買ってきて欲しいものでもあるの?」


津田は、自分の前に押しやられた三千円を不思議そうに眺めて首を傾げる。


「じゃなくて、食材とか調味料とか色々買って来てたでしょ、その分。まあ、足りてないのはわかってるけど、今はそれだけしか財布になかったから、残りはおいおいってことで」


そう言ってもまだ津田は、不思議そうな顔を崩さない。


「私だって食べてるんだから、払わないのは不公平でしょ」


こう言えばわかるかと思ったが、津田は夏歩の話を聞いているのかいないのか、ジッとテーブルの上のお札を眺め、しばらくしたところで先ほど夏歩がしたようにお札の上に手を乗せると、それをずいっと押し返した。


「これは、丁重にお返しします。確かに色々買ったし、それはなっちゃんの口にも入ってるけど、光熱費なんかはなっちゃん持ちだし、食材の保管場所として冷蔵庫だって使わせてもらってるし、それで充分でしょ。このうえお金なんていりません」


押し返されたお札から津田の手が離れたタイミングで、夏歩も負けじと再びそれを津田の方に押しやる。


「それとこれとは話が違うでしょ。こういうのは、ちゃんとしておかないと気持ち悪いの」
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