気づけばいつも探してた
10.リセット
10.リセット

処置室から出てきた看護師が祖母の点滴が終わったと言うので、翔と中に入る。

運ばれる前とは違い、顔色もよくなった祖母は穏やかな表情で眠っていた。

「よかったぁ……」

小さく呟いた私の横で、翔も「ああ」と口元を緩め頷く。

私たちが入った後すぐに祖母を担当した医師がやってきて、祖母の今の状態について丁寧に説明をしてくれた。

やはり翔の言った通り軽い脱水症状とのことで点滴で水分を補ったとのことだった。

とりあえず、今晩は病院で安静に過ごせば明日の朝は退院しても構わないらしい。

紘一さんが話をつけていてくれたおかげで、祖母の一晩だけの入院の手続きもスムーズに運び、私は翔に促されるまま一人ホテルに戻った。

叱られるだろうなぁと思いつつ、でもやっぱり報告しなきゃと決心して母に電話をする。

一瞬言葉をなくした母だったけれど、今の状態を伝えると安心したのかいつものように私に毒づいてきた。

「これだから、美南に任せるのは心配だったのよ。だけど、翔さんがいてくれて本当に助かったわね」

「うん、そうだね」

「そんな臨機応変な対応できるなんて、よほど頭がいいか、もしくはお医者様だけだわ」

感心する母に、実は翔は医者なんだよって言いそうになったけれど、なぜか今は言わない方がいいような気がして口をつぐんだ。

「明日は何時に空港に着くの?」

「確か3時には着く予定だったと思う」

「じゃ、迎えに行くわ」

来たら来たで騒々しくなるのは目に見えてる。疲れている体には堪えるよねぇ。

半ばうんざりした気持ちになり、やんわりと断ってみる。

「帰りは大丈夫よ。翔が介護タクシーも手配してくれてるし」

「まぁ、何から何までお世話になって!お母さん、本当に行かなくて大丈夫?」

「大丈夫よ。それより家についたらおばあちゃんがすぐ休めるようにだけ準備しておいて」

「わかったわ。じゃ、気を付けて帰ってくるのよ。それにしても今回の旅は翔さんがいてくれて本当によかったわねぇ」

「確かにそうね。今日も翔がいなかったらどうなってたかわからないわ」

「今度お食事にでも招待しましょ。翔さんにはくれぐれもよろしく伝えて」

「了解」

とりあえず明日の迎えは断念した母にホッとする。

母が来ると何かとやかましいからね。

祖母もたまに口うるさい母に眉間にしわをよせてるもの。

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