イケメン不良くんは、お嬢様を溺愛中。
「こんにちは、私はディオと申します」


ちょっとたどたどしいけれど、流暢な日本語だった。
ディオくん、綺麗な人だなぁ。


「よろしくお願いいたします」

折り目正しくお辞儀をしているディオくん。

「席は少し前に転入してきた矢神くんの隣が空いているね。矢神くん、頼んだよ」


先生から声をかけられた剣ちゃんは面倒そうではあるが、うなずく。

無視したり反抗したりしないだけ、進歩だなあ。

この学園に来た頃の剣ちゃんなら、絶対に『面倒くせぇ』って言って、引き受けなかったと思う。

出会った当初のことが頭に蘇ってきて、苦笑いしていると、ホームルームが終わった。

ディオくんの周りには、さっそく女の子たちが集まる。

「留学なんて、勉強熱心なのね」

「社会勉強です。だからいろいろ教えてくれますか? もちろん、可憐で美しいきみたちのことも」


そう言ってウインクを送るディオくん。

息をするみたいに女の子たちを口説いている。

それに女生徒からは歓声があがった。


「もし、ディオくんに見初められたらロイヤルウェディングよ。素敵よね~」


プリンセスになる自分を想像してか、女子のまとう空気がキラキラしている。

それに呆気にとられている間にも、ディオくんはひとりの女生徒の手をすくうようにとってその甲に口づけた。


「日本の女性は慎ましやかで美しいですね」


キスをされた女の子はボンッと顔を赤らめて卒倒する。

それを目の当たりにした学くんの目が遠くなった。


「想像以上のキャラだな……先が思いやられる」

「か、閣下! しっかりっ」


萌ちゃんが魂が抜けかけている学くんの肩を揺する。

そんなふたりを見てあわあわしていると、ガタンッと机を蹴る音がした。

まさか……。


「ここは日本だ。気色悪い茶番見せんじゃねぇ。俺の半径1メートル以内では、静かにお勉強してろ」


案の定、剣ちゃんはギロッとディオくん含め女子軍団をにらみつける。


「お勉強、どの口が言っている。あいつ、毎回赤点だろう……いや、議論はそこではない」

学くんの眼鏡がキランッと光った。

「王子に向かってなんてことを口走った……」


心なしか、学くんの背後に怒りの炎がめらめらと燃えている気がする。


「あいつはバカか? ああ、正真正銘のバカだ。本能のままに生きる獣と同じじゃないか」

「ま、まあ学くん。剣ちゃんだって、あんなに周りが騒がしかったらイライラしちゃうと思うし……」


とっさに剣ちゃんをかばうと、学くんは静かな威圧感をまとって私を見すえた。

あ、これはまずい展開かも……。


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