イケメン不良くんは、お嬢様を溺愛中。
「そもそも、これは森泉、お前の監督不行き届きだ。よって、あの獣を止めてこい」


ビシッと学くんが指さす先には、とてつもなく不機嫌な剣ちゃんと余裕の笑みを浮かべるディオくんがいる。


「ええっ」

――無茶振りだ!

そうは思いつつ、学くんの目が恐ろしかったので私は立ち上がる。


「生きて帰ってね、ご武運を……!」


白いハンカチを振りながら、縁起でもない声援を送ってくる萌ちゃん。

私は恐る恐る剣ちゃんのもとへ向かう。


「剣ちゃん、落ち着いて」

「キャーキャーうるさくてかなわねぇんだよ」

「ディオくんはきっと、このクラスに来たばかりで、みんなと仲良くなろうって必死なんだよ」

「女を口説くのに必死、の間違いだろ」


腕を組んで悪態をつく剣ちゃんだったけれど、一応は私の言うことに耳を貸してくれるらしい。

不本意そうな顔で自分の席に腰かける。

ようやく事が鎮まりそうだと思ったとき、すっと誰かの手が頬に添えられた。


「わっ」


慌てて振り返れば、ディオくんの顔が間近にあった。


「私をかばってくれて、ありがとう。優しく、美しいあなたに心打たれてしまいました」

「あん? なんつった、てめぇ」


私の代わりに剣ちゃんが返事をすると、遠くから殺気が飛んでくるのを感じた。

びくびくしながら視線を向けると、学くんの目が『矢神を止めろ! さもなくば学園から追放する』と訴えかけてくる。

否、ような気がする。

怖いよ……!

私は泣きそうになりながら、ディオくんの手から逃れるように一歩下がった。


「あのね、ディオくん」

「なんですか、レディ」


長身の腰を折って、うやうやしく小首をげながら尋ねてくるディオくんに、私は苦笑いする。


「私はレディじゃなくて、森泉愛菜だよ。留学して来たばかりでとまどうことも多いと思うけど、ひとつだけお願い」

「お願い?」

「そう。ディオ君の国では日常のあいさつかもしれないけど、日本の女の子はスキンシップに慣れてないから、むやみやたらに触っちゃだめだよ」

「そうなのですか?」

「うん。それにディオくんはかっこいいから、周りが騒いじゃうと思うんだけど……」



私は自分の唇に人差し指を当てる仕草をする。


「そういうときはディオくんからも、みんなに『しー』ってしてくれると助かるな」

「……なるほど、静かにってことですね」

「うん! 静かにね」


よかった、わかってくれたみたい。

ほっとしていると、言ったそばからディオくんは私の腰を抱き寄せる。


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