明治禁断身ごもり婚~駆け落ち懐妊秘夜~

それから十日ほどして、夕食の折に父から衝撃の事実を知らされることとなった。

「八重、喜びなさい。先日の授業参観でお前を見初めてくれた方がいらっしゃって、縁談が持ち上がったよ」
「縁談……」


父はすこぶる上機嫌。
普段は仏頂面で食事を進めるくせに、目尻を下げて口元を緩めている。

しかし私は狼狽を隠すのに必死で、作り笑いさえ浮かべることもままならない。


「それが、徳川家の血を引く侯爵清水(しみず)家からのお話だ。ご長男の恒(ひさし)さんは齢二十七で、帝国大学を卒業後、現在は農商務省に勤務していて将来が期待される優秀な人らしい。結婚相手として申し分ない」


自分の将来に関わる話なのに、頭に入ってこない。

いずれこういう時期がやってくると腹をくくっていたところもあったが、それも黒木さんに出会う前まで。

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