明治禁断身ごもり婚~駆け落ち懐妊秘夜~

「はい。はねた直後にお医者さまに診ていただけば、歩けなくなるまではいかなかったかもしれないのに、見捨ててお逃げになったそうで。事故が明るみになっては真田の名に傷がつくと。後日、周囲で目撃した人間に金を握らせたとか。私はそれを指示された使用人から聞きました」


それほどひどいけがを負ったのなら命の危険もあったかもしれないのに。人の命と真田の名を天秤にかけたと?

あり得ない。


「あ……」


そのとき、とあることを思い出して目を瞠る。


『妹がいたのですが、事故で歩けなくなってしまいました』


たしか、信吾さんはそう言っていた。

もしかして、事故に遭ったのは彼の妹さんなの?


彼は妹さんをはねた犯人を捜すために警察官になったのかもしれない。

そう考えると、警察官を辞めても目的は果たせると言っていたのも腑に落ちる。
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