明治禁断身ごもり婚~駆け落ち懐妊秘夜~
「どうだ。少々値は張ったが、清水家に送り出すにはこのくらいしないとなぁ」
「ありがとうございます」
「最近の八重は毒が抜けたように物静かだ。清水家の嫁になる自覚が出てきたか?」
とんでもない勘違いに腹が立つ。
「……お父さまは、爵位がそれほど大切ですか? 人の命より、大切ですか?」
「八重さま」
思わず出た言葉に、てるが焦って止める。
「なにを言っているんだお前は。命? なんの話だ」
平然と言い放つ父は、信吾さんの妹さんのことなど気にもかけていない様子だ。
「旦那さま。八重さまは少々体調がお悪いようですので」
感情が爆発しそうになったとき、てるが間に入ってくれたので、私は膝の上の手を握りしめて涙をこらえた。
父は戻っていったが、立派な黒留袖だけが残された。
「八重さま。私は八重さまに幸せになっていただきたいのです」
「てる……」
恒さんとの挙式まであと一カ月。
心は置いてきぼりで、着々と準備が進んでいる。