My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 3
驚いて振り返ると、先ほど詰所にいた髭の男が私たちの横を通り過ぎ二人の元へと無遠慮に向かっていく。
セリーン達はすでに剣を引いていた。
「この決闘はここで終いだ! 賊の討伐へは別の者が行くことになった!」
その言葉に群衆がざわついた。どういうことだ? こんないいところで。当然のことながらそんな文句ばかりだ。
「そういうわけだ。ほら散った散ったぁ!」
髭の男がそう叫ぶと皆つまらなそうに渋々その場を離れて行く。
私はホっと胸を撫で下ろしたが、一番納得がいかないのは今闘っていた当の二人のはずだ。
「どういうことです。この勝負に勝った者が賊の討伐へ行けるという話だったはず」
案の定、クラヴィスさんが髭の男に言う。流石にその顔から笑みは消えていた。
「報酬無しでいいって者が現れてな。こちらもその方がありがたいんでね」
そう悪びれもなく言いながら髭の男が大股でこちらに戻ってくる。丁度そのとき不機嫌顔のラグが詰所から出てきた。
「囚われているって男が知り合いなんだそうだ」
「知り合い?」
髭の男を追って来たクラヴィスさんが怪訝そうにラグに視線を送る。が、ラグは彼を見ること無く私達の方を見た。
「行くぞ」
「え? あ、うん」
行くということは盗賊の居場所を聞けたということだろう。一体どう説得したのだろうか。
と、セリーンも剣を仕舞いこちらに歩いてきた。彼女は特に異論はないようだ。
(セリーンはラグがモンスターと戦ってくれさえすればいいんだもんね)
しかし当然のことながらクラヴィスさんはまだ納得がいかないよう。
「待って下さい。貴方方4人で賊の元へ?」
「あぁ、わりぃな。急いでるもんでさ、今回は諦めてくれ」
ひらひらと手を振り笑顔で答えたのはアルさんだ。
するとクラヴィスさんはそこで足を止めた。諦めてくれたのだろうか。少し可哀想に思っていると、彼は意を決したように再び口を開いた。
「私も連れていってはもらえないでしょうか」