My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 3

4.ノービス一家


 ドナとモンスターの後をついて行くことほんの数分。
 ビアンカの降りた場所から本当に近い場所に彼女達の家はあった。

 しかし最初ドナに「ここだ」と言われた時には戸惑った。そこは鬱蒼とした山中でも開けた場所で、でも見えたのは小さな畑だけ。どこにも住居らしいものが見当らなかったのだ。
 私のそんな表情を見て、ドナはくすりと笑った。

「ウチはあそこだ」

 彼女の指を追うように空を見上げ私はあっと声を上げた。樹の上にそれはあった。
 所謂ツリーハウスだ。木造の小屋が5メートル程頭上、大きく枝別れした樹の中心にどっかりと鎮座していたのだ。

「ツェリはそのままここで待っててくれるか?」

 ドナの声に、口を開けたままぽかんと小屋を見上げていた私は視線を落とした。
 その場に大人しく座り込んだモンスターを見て、今のがモンスターに向けて言った言葉なのだとわかった。

 ドナを真っ直ぐに見上げるモンスターの姿はとても凛々しく、それでいてつい先ほどこちらを威嚇していた凶暴なモンスターとは思えないほどに美しく見えた。

 ドナはそんなモンスターに優しく微笑みかけてから私を振り返った。

「ついて来て」
「え、でも私たち二人とも乗っちゃって平気かな。壊れたりしない?」

 ラグを指差しつつ訊くと、ドナは心配いらないと笑った。

「ちゃんと月に2、3度点検してる」
「そ、そう」

 それは百パーセント安心には繋がらなかったけれど、きっと大丈夫だろうと腹をくくり私は再びそのツリーハウスを見上げた。

 丁度私たちには死角となっていたその大樹の裏側に、簡単な作りの梯子が掛けてあった。
 それをドナ、私、ラグの順番に上っていく。想像よりもずっと頑丈に出来ていたその梯子からデッキに上がると、すぐ目の前にドアがあった。

「ドナ、この中にその子がいるの?」
「あぁ、その兄貴と、あと二人。それがアタシ達ノービス一家だ」

 にっと笑って言うドナにまたも私は驚く。
 確かに他に家らしきものは見当たらなかったけれど、ドナ含め5人でここで暮らしているということだ。

(子供だけで……?)
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