トルコキキョウ 〜奈月と流奈を繋ぐ花〜
Chapter 3
4月のアメジスト
四月を迎えたばかりの風は、どこかまだ冷たさを感じさせる。
それでも上を見上げれば、空の色は春めいていてた。
「ねぇ、あんたどこ中?」
気だるそうにしガムを噛みながら、花壇前の地べたに座り込み人目を気にせず、私に話しかけているのは、青いアイシャドウに紫の口紅をした一人の女。
橋本流奈
その女にからまれているのは
内田奈月で私である。
私は、高校生活を待ち焦がれていた。
知らない土地で、新しい友達を作るんだと高校受験を決めてからワクワクしていた。
それなのに、あっという間に覆されたのは昇降口の門をくぐった花壇の前。
なんとも、最悪な朝を迎えてしまった。
そしてもっと最悪なのは入学式だということ。
ワクワクした高校生ライフへの憧れや希望は、目の前の不良に絡まれ、無残にも壊されていく。
それでも得意の髪をかきあげ深呼吸して呼吸を整えると、ゆっくりと落ち着いた口調で話した。
「千里中だけど」
その女は、表情を一切変えずただまっすぐ私を見ている。
それは、まるで獲物を捕らえたかのように・・・。
ただ、ただ、無言の時間が過ぎた。
「ふーん、知らない中学だわ」
暫くして、その一言を残し目の前の女はどこかにいってしまった。