今夜、桜の木の下
「……え?…」





病室のドアを開こうとした時、隙間からママの姿が見えた
私のベットの横で何食わぬ顔で荷物の整理をしている、私が居ないのに普通にしているママが居る
こっそりバレないように扉を閉めた


どういう事?なんで?



私が居ないのに普通にしてるママが少し気味悪かった、昨日怒られたばかりなのに
車椅子に乗ってることを知られたら
何言われるか分からない


私は病室の入口の横でしばらく固まった



やばい、やばすぎる、どうしよう
冷や汗が止まらなかった


いや、そんな暇無い早く戻らなきゃ…



「すぅーー、はぁーーー、」





胸に手を当てて深呼吸した



そうだ、さっきの看護師さんに散歩に連れてってもらったことにしよう!




意を決して表情を作った。
いつも通り、いつも通り、


……よし!


何も無かったかのように、元気にドアを開けた



「あ!ママごめん今看護師さんが来て少し散歩したいって話して連れてってもらっ……」


「ねえ、千夜」




「…は、はい?」



ママが私の話なんか聞こえてないように遮るもんだから驚いて敬語になった





「フォークダンス、ダメだからね?」





「…え?」


何も聞こえなくなった、廊下の足音話し声も何も聞こえない
まるで悪いことがバレたような感覚





なんで知ってるの…?


もしかして聞いてたのかな…






ママは私の方を見ない
優しい顔にしてるけど私には分かる
ママは怒ってる





「それに…美奈ちゃん?だっけ?仲良かったのね」


「う、うんあのー、高校一緒になってからちょっと仲良いんだよね!」


私上手く笑えてる。大丈夫。




「へぇー、そう」




あれ?意外と普通?
これなら行けるかな?


私はいつも通りの態度でベットに戻ろうとした
バレないようにいつも通りに





「ママの気持ち、分かってくれてると思ってた」






ママは整理の手を止めない
当たり前のようにそれを話す
自分が今どんな顔してるのか分からない


背筋が凍りついた
全部見透かされてるような気がした






あれ、上手く笑えない?
笑わなきゃいけないのに……




……なんで笑わなきゃいけないんだっけ
...私が笑う必要ってあるの?
それってママのため.......?






自分の中の積み上げて来たものを
全部無駄なことだよと言われた気がした


それよりも私は美奈にこんな言い方をするのに
腹が立ってたまらなかった


考えるより先に言葉がポンポン頭に浮かんだ




「ねえママ」




ママは手を止めない、私の方を見ない




「なあに?」




「ママの気持ちって何?」


普通のトーンでいつも言わない言葉を言う私にびっくりしたのか、ママの動きが、ピタリと止まった




「…え?」



本音を言うとママはこっちを見てくれるんだね
いつもは私の顔なんか見もしないくせに






1度出ると止まらなくなる





「ママの気持ち分かってるよ?美奈となんで仲良くするの?ってことだよね?よく考えれば分かるよね?……私が好きで一緒に居るからだよ!!
どうしてママは私の気持ち分からないのに、理解することを求めるの!?いつもそう私が心配?違うね!パパへの罪悪感を私に押し付けてるだけ!」


「…………」

ママは私のTシャツをにぎりしめて俯いている


「私の事なんだと思ってる?私はママの娘だよ?パパの罪悪感を押し付ける相手じゃない!私のやりたい事、今やりたい事何か分かる?…言える訳ないよね?だって言ってないもん、私の話って聞いてる?聞いてるつもりになった?私はママに、何がしたい!どんなことが面白いよ!…っそんなことも言えないんだよ!?自分を分かってくれて自分も理解する人と居ることがどうしていけない事なの!正直ママへの気持ちが分からない、私の事で罪悪感感じて一生悩めばいい!!」


息が続かなくなるくらいにママに今まで言いたかったことをぶつけた
初めて泣いた、号泣してやった
正直スッキリした
吸い込む空気が美味しく感じる




私は変わりたかった
私が変えてしまったママも変えたかった
私にとっては大きな一歩だった


ママは小さな声で呟いた




「……そう…」



え?思ってたのと違う…




ここまで言ったのに、それ?私が我慢してきたことと割に合わない、それじゃあこの怒りはどこにぶつければいいの
言いたいことを言いきったはずなのに
言葉に乗せるのには多すぎる私の怒りは
全然収まらない




ママの表情は何も変わらない意味分かんない
何でよ、むかつくむかつくむかつく
ここまで来ると今までの全部に腹が立ってくる
長年溜まってきたものが雪崩になって止まらない





「……は?それだけ?どうして1番近くにいる味方から目を背けるの!?私はそばにいたよ!?ママの傍にずーーーっといた!泣かないで、ママの欲しい言葉をあげたよ!?でもね?パパを失ったのはママだけじゃないから。ママは私の味方でいてくれなかったね!この16年間私の味方でいてくれたの美奈だけだった、それなのにどうして何でもかんでも私からはがそうとするの!?何も分かってない!」





ママの表情は見えない
ママはもう私を見ない






「私の何も知らないのに、親ヅラしないで!」





私はそのまま病室から飛び出した
走り出したいのに走れなくて
気持ちのスピードに追いつかない車椅子に余計腹が立った、腹が立つ事が増えれば増えるほど
涙が溢れた

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