青の秘密を忘れない
朝目覚めて、メッセージを確認すると青井君から連絡が来ていた。

『無事に帰れました?今日めっちゃ楽しかったです!
早くまた篠宮さんに会いたいな』

通知を非表示にしたせいで全く気付かずに半日くらい経ってしまっていた。

不意にきたメッセージを夫に見られるリスクを回避するためには、通知非表示にしないと危ない。
別に青井君に言う必要はないと思い、今後はこまめに確認しようと心に決める。

『おはよう。ごめんね、昨日寝ちゃってた。
私も楽しかったよ。早く会いたいね!』

送った瞬間に既読になって、すぐに返事が来る。

『おはようございます!よかった、電車寝過ごしてたらどうしようかと(笑)』

返事を待っていたのかなと思うと可愛くて、思わず頬が緩む。

『心配掛けてごめんね』

またすぐに既読になる。

『早く篠宮さんに会いたいし、声が聞きたいです。
電話もしたいな~』

電話か……。

青井君より夫の方が帰りが早いし休みの日もほとんど家にいる。
申し訳ない気持ちで何て返事するか悩んでいると、追加でメッセージが送られてくる。

『無理はしないで大丈夫ですよ!連絡が取れればそれで幸せです』

『分かった。電話できる時はたくさんしようね』

『やった~!篠宮さん、好きです』

脈絡ない「好き」にドキッとして、私も「好きだよ」と返事をする。
なるべく彼が不安に思わないように言葉でも態度でも好きと伝えたい、そう思った。


引っ越し前日、夫が友人に送別会を開いてもらう関係で時間ができた。
その日の朝にそう連絡したら、その日の夜は思ったより早く連絡が来た。

『電話していいですか?』

『お疲れ様!大丈夫だよ』と送った瞬間に青井君から着信が入る。

「もしもし」

「篠宮さんだ!ずっと声聞きたかったです!」

名乗るのも挨拶も忘れるくらいそう思っていたのかと思うと、思わずキュンとする。

今までも喜怒哀楽に対して素直な子だと思っていたが、思いが通じ合ってからは本当に感情表現が真っ直ぐだ。
二十四歳の男の子ってこんな感じなんだなと妙に感心してしまう。

近況は随時報告し合ってはいたが、電話で話すのは楽しくて時間が足りない。
それでも、夫が帰って来る時間はやってきて。

「そろそろ電話切らなきゃ。……明日、引っ越すよ」

「そうですよね。僕、会いに行きますから」

「ありがとう」

そう言って電話を切った。
少しして夫が帰宅すると「何かいいことでもあった?」と聞かれたので、適当な理由をつけた。
ばれないように日頃から「いいこと」を探しておこうと心に決める。


その次の日、私は新幹線で二時間程の場所に引っ越しをした。
見知らぬ土地に行く不安より、青井君と離れる不安の方が大きくてそう彼に送る。

『大丈夫です。ずっと大好きです』

根拠のないその言葉が嬉しくて、愛しくて、それなのに少しだけ不安が増していた。

「ずっと」って、離れてもこんな状況が続いても、本当に「ずっと」……?

ちょうどその時、新幹線が走り出す。
ぐんぐんと速度を上げて、周りの景色が色を変える。

「ジェットコースターみたいだよね」

そう何気なく言った夫の言葉が、なぜか胸に刺さってしばらく返事を打つことができなかった。
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