青の秘密を忘れない
第7章 キスで確かめ合う気持ち
私の一日は、午前七時に起きて彼に返事をすることから始まる。
大体彼の方が先に寝てしまうから、私は返事を待つ側だ。

「今まで頑張ってきたんだし、少しの間ゆっくりして」と夫に言われ、数ヶ月専業主婦をすることにした。
だから、青井君と何回かやりとりした後は、家事をして夕飯の材料の買い出しをする。

当たり前だけど慣れない土地、知らない人。
まるで私だけどこかから連れてこられたみたいな気分。
夫への罪悪感から私はいつもよりちゃんと家事をしようと思えた。

外を歩いていると、ふいに考える。
私はそんなことをする人に見えるかな。
この中に私みたいな恋をしている人はいるのかな。
答えは出ない妄想をしながら、私は周りの人たちと同じような顔をしてその場に溶け込んだふりをする。

そして大体夕方になる頃には、手元の携帯電話が気になって仕方なくなる。
早く向こうに戻りたい。

でも、夫いわく「二、三年はこっち」らしい。

その頃には私は三十三歳だ。
彼は、 まだ二十七歳。今の私より若い。
言い様のない焦りを感じる。

バリキャリをしていた訳ではない。
でも、そこそこ好きな仕事に邁進していた。
私って何なんだろうと虚しさを感じてしまうのは事実だった。

そんな不安な思いから、帰る時間が近付くとメッセージの一覧画面を見つめてしまう。

『お疲れ様です!』と青井君からの連絡を見ると安心がぶわーっと広がっていく。

全てを繋いでくれるのは、彼だけだ。

すぐに返信を打つのは憚られて、私は夕飯の仕上げを始めるのだった。


次に会うチャンスは意外と早くやってきた。

引っ越して一ヶ月後の三連休に、大学時代からの親友がこちらに遊びに来る予定になっていた。

『ごめん、二泊は難しそう。一泊でもいい?』

親友からのメッセージに『大丈夫だよ』と返事を打ちながら、ふと思う。

青井君と会える……?

夫には既に二泊三日で出かけると伝えている。
一日は本当に親友と過ごす。
全部が嘘ではないから、ごまかせる気がする。
青井君が本当にこちらに来てくれるのなら……。

悪い考えが体を駆け巡る。
全身が心臓になったみたいに、鼓動がバクンバクンと音を立てる。

「そんなのよくないよね」と呟いてみたが、言葉とは裏腹に私の手は青井君へのメッセージを打ち始めていた。
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