青の秘密を忘れない
私は、近くにあるカフェでゆりえに青井君の話をした。

「えー、そんなことが……」
思いがけない話にゆりえは絶句している様子だった。

「ごめん、こんな話して」

「いや……。青子は、そういうことしない人だと思ってたからちょっと、いや、かなりびっくりしてる」

その言葉に一瞬傷付いて、傷付く資格なんてないと思い直して何も言わなかった。
ゆりえは少し何かを言い淀んでいたが、コーヒーを一口飲んでこちらを見て言った。

「青子は、青井君、と一緒になりたいんだよね」
「うん」
「青井君もそう思ってくれてるんだよね」
「うん」
「青井君はまだ二十四歳なんだよね」
「うん」

「その気持ちって、それまで保つことできるのかな」

言葉に詰まって、ゆりえを見つめて固まってしまう。

「二十四歳って子供じゃない?私たちもそうだったし。
今は青子のこと大好きでそう言ってくれてるかも知れないけど、いつか正臣君にばれて現実を見て……もし逃げちゃったら青子だけがつらい思いするんだよ?」

「青井君はそんな人じゃないって信じてる」

信じてる、信じたい、信じさせてほしい。
そんな気持ちを見透かすように、ゆりえはため息をついた。

「私は青井君に会ったことがないから否定はしないけど。
ちゃんとリスクは考えて共有しておかないとだめよ。
好きって気持ちだけじゃどうにもならないことってあるから」

決して突き放されている訳ではないことは分かっていた。
心配して言ってくれているし、ゆりえの言葉はもっともだった。
私は、ゆっくりと頷いた。

「不倫が許されないことなのは間違いないよ。
正直、今、青井君とそうやって内緒で会うのもよくないと思う。
青井君の気持ちが変わらない確証もないと思ってる。
正臣君と仲良くやっていく方をオススメする。
でも、私は、青子が幸せになってくれるならその選択を応援するから」

「ゆりえ……、ありがとう」

私が涙目になっているのを見て、ゆりえは「ここは青子のおごりね」と冗談めかして笑った。

いつも絶対的に味方でいてくれるゆりえだから、そう言ってくれたのだ。
他の人なら何も言わずに軽蔑することだということを忘れてはいけないと思った。

「青井君によろしく」

ゆりえと別れると、私は青井君の待つ駅へ向かった。
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