青の秘密を忘れない
「篠宮さん、待たせてごめんなさい!」

待ち合わせの時間から二十分程過ぎて、青井君がカフェに駆け込んでくる。

きっと急いで出てきてくれたのだろう、額に汗がにじんでいた。
青井君も汗かくのだなぁと思って、なぜかドキッとする。

「いや、早めに連絡くれたからお茶してたし全然大丈夫だよ」

「よかった。じゃあ、行きますか」

さっきの「リスクを共有した方がいい」というゆりえの言葉が頭をよぎったが、まずは楽しく過ごしたいと思って考えることをやめた。

近くのイタリアンで夕食を食べて、私たちは公園を散歩した。

そこら中のベンチでカップルたちがイチャイチャしている。
この中に私たちみたいな二人はいるのだろうか、と思ってつい見渡してしまう。

「羨ましいな」と青井君が呟いて、空いているベンチに腰掛けた。
私もドキドキしながら彼の隣に座ると、優しく手を握られる。

「旦那さんが羨ましいです」

思いがけない一言に、彼の方を向くと目が合った。

「なん、で……?」

なんとなく言いたいことは分かったが、彼の言葉で聞きたかった。

「こうやって短い時間を大切に過ごすのも、もちろん幸せなんですけど。
時間も考えずに篠宮さんと一緒にいられて、どうでもいい話するのってもっと幸せなのかなって。
そう思うと、旦那さんが羨ましくて仕方ないです」

そう言って弱弱しく笑う青井君に胸が締め付けられて、そっと彼の頬にキスをした。

「でも、私が好きなのは青井君だよ」

「篠宮さん……」

こんな風に言ってくれるなら、私は彼を信じたい。
私はもう青井君を離したくない気持ちでいっぱいだった。

青井君は私のネックレスのブルーサファイアに口づけた。
私は青井君の髪に顔を埋める。
微かに汗のにおいがする。
決していいにおいではないはずなのに、青井君のにおいだと思うと愛しく感じた。

ただ、それと同時に、青井君の気持ちの加速度が激しいことに不安になってしまう自分がいた。

「まだ彼は子供」というゆりえの声が、頭の中で微かに聞こえた。
それをかき消すように、もう一度彼の唇にキスをした。
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