青の秘密を忘れない
第14章 二十四歳の恋は
待ち合わせ場所に着くと、青井君は既に着いていて音楽を聴きながら携帯電話を見つめていた。
私は明るくふるまうと心に決めて、ちょんちょんと青井君の腕をつついて「お待たせ」と笑った。

「いーえ。じゃあ、行きます?」
冷たくはないが、どこか緊張感があって努めて気だるさを出そうとしているように思えた。

時間もないので、私たちは公園のベンチに座った。
カフェに入ると周りが気になってしまうから。

「悩ませちゃってすみません」

青井君が俯いたまま、ため息と共にそう口にする。
青井君の手が私の手を掴もうとして、直前で戻すのが視界の端に映る。

「あれから特に考えは変わってません。
篠宮さんをどう思ってるか考えるのが怖い。旦那さんと別れてほしくない。
でも、篠宮さんを傷付けたかった訳じゃなくて……」

「分かってるよ。私が独身だったら何も問題はなかったことだし。こちらこそごめんね」

青井君は何度も首を横に振る。

「私もずっとずるかった。私がどうしたいかって全然言わずに、嫌われたくなくて青井君に委ねてた」

今度は私から青井君の手を握る。
反射的に引こうとしていたのを、ぐっと自分の方に寄せた。

「私はやっぱり青井君が好きだよ。ずっと一緒にいたいから、いずれは結婚したいと思ってる」

青井君の表情が一気に沈む。
でもそれは、私の気持ち自体に対してではないことは分かっている。

「今すぐじゃないよ?この前、青井君が言ってたみたいに様子見て、だね」

「いいですけど、僕は結構頑固ですよ。
しばらくはほんと好きとか言えないです。
言われるのもちょっとプレッシャーというか……」

そう言って彼は冷たい苦笑いを浮かべた。

「これが本来の僕なんですよ」

飽きっぽいところもあるよ、とは言わなかった。
それが悪い方に、私を好きじゃなくなる方に転がる可能性もある。
でも、まだ青井君が私を好きな気持ちがあるなら、冷たくすることに飽きる日が来るかも知れない。
自分でも訳の分からないポジティブ思考だなと他人事のように思う。

「前の青井君に戻らなくたっていいよ。新しい青井君との関係を築けばいいし。
大丈夫、青井君は私を好きだって分かってるから」

あまりにもどや顔で言い放つ私に、青井君は堪えきれずに無邪気に笑った。
私も不安な気持ちをかき消すように笑った。
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