イケメン富豪と華麗なる恋人契約【番外編】
☆ ☆ ☆


――祖父、望月賢太郎の後を継ぎ、日向子が望月グループの代表になって一年。
遺言書に書かれてあった期間が終了し、彼女は筆頭株主としての地位はそのままに、経営権をそれぞれの会社の取締役会に一任した。
例の乗っ取り騒動でお金を受け取っていた者は失脚したが、それ以外、会社の未来を真剣に考えていた人たちに経営権を委ねたのである。

現在の日向子は、望月陶器の名誉会長という、いわゆる肩書のみの役職に就いていた。

『経営手腕はともかく、日向子社長には人の心を惹きつける力があります。今や、世界最強ともいえる後見人もいらっしゃることですし、お飾り社長を続けられては?』

一年間、日向子の秘書をしてくれた優奈は、千尋のことをちょっとだけ揶揄しつつ、それでも本気で慰留してくれた。
だが、日向子は断った。

『お飾りなら、社長の肩書がなくてもできそうなので……。それに、この先、何かあったときのために、ちゃんとした資格を取っておきたいんです。だって、人生って何があるかわからないでしょ?』

そう説明して、去年まで勤めていた小野寺の事務所に戻り、まずは行政書士になるための勉強を始めたのだった。


三輪の父にとって恩師にあたる小野寺は、日向子たち姉弟を騙していた内田とも旧知の仲だった。
小野寺曰く――
日向子たちの窮状を知ったとき、内田の手続きに多少の疑問を持ったという。
だが、まさか内田に限って……という思いが先に立ち、あえて調査するような真似はしなかった。

『あのとき、俺がもっと踏み込んで調べていれば……。日向子くん、本当に申し訳ない』

内田の罪は白日の下に晒され、執行猶予つきの有罪判決が下った。
懲役実刑にならなかったのは、日向子との示談が成立していたこと、可能な限りの賠償を済ませていたこと、そして、日向子が出した減刑の嘆願書のおかげだと聞いている。

『小野寺先生のせいじゃないのに、謝らないでください。……内田先生も、魔が差したんだと思います。余罪はありませんでしたから』

焼け出された日向子たちを助けた夜――内田の思いやりに、嘘偽りはなかった。
だが、数千万円の保険金、土地の売却代金を目の前にしたとき、思いやりの天使が、欲望の悪魔にとって代わってしまった、と取り調べで話したという。
< 3 / 8 >

この作品をシェア

pagetop